「フローレンス・ナイチンゲールは鶏頭図、鶏のとさか呼ばれる一種の円グラフを考案した」は誤りではないか?

 

矛盾のある記述

統計学習の指導のために 補助教材統計 エピソード集 ナイチンゲールと統計

https://www.stat.go.jp/teacher/episode03.html

統計局の出している補助教材によると

今も「鶏のとさか」と呼ばれる円グラフの一種はこの過程で彼女によって考え出されたものです。

フローレンス・ナイチンゲール - Wikipedia

日本語版ウィキペディアによると

ナイチンゲールが考案した「鶏のとさか」と呼ばれる円グラフ。クリミア戦争での負傷兵たちの死亡原因を、予防可能な疾病、負傷、その他に分けて視覚化している

と、鳥のとさかと呼ばれるグラフを考案したと書かれている。

 このグラフはpolar area diagramもしくはNightingale rose diagram、coxcombとも呼ばれているらしい。

 しかし、この記述を調べていくと同じ日本語版ウィキペディアの円グラフの中では

円グラフ - Wikipedia

ナイチンゲールがこの図を考案したとされているが、もっと早い時期にこれを使った例がある。Léon Lalanne は1843年、32方位での風向の頻度を鶏頭図で表した。1829年、André-Michel Guerry は周期的現象の頻度を鶏頭図で表したものを論文に掲載している。

と、書かれており矛盾している。どういうことなのだろうか?

調べてわかったことについて以下に列記する。順不同の為読みにくいかも。

鶏頭図グラフについて

 まず、そもそも鶏頭図とは何か?

 鶏頭図は、円グラフの角度は項目ごとに一定で、数の大小は半径で表される物を指す。円グラフというよりは、棒グラフを円形に配置したものと言っても良い。ただ、棒グラフを円形に配置するよりも、円グラフにすることで大きい数字の項目は過剰に大きく、小さい数字は項目は過剰に小さく表現されることになる。統計学者的には見にくく勘違いさせるグラフはどうなんだ。彼女がこのグラフを利用したのは、死亡率の高さをアピールし、現状の改善を訴えるため?。

 ナイチンゲールはこのタイプのグラフを鶏頭図、すなわちcoxcomb(鳥のトサカ)とは呼んでいない。後世の伝記作家の勘違いによるもの。正しくはナイチンゲールが「coxcombにこのグラフが載るはずだ」(※ここでのcoxcombは1858年に発行された報告書のことを指す。表紙がそういった図柄だったからか、それとも報告書の名前がそうだったかは不明)と言ったのをグラフの名前と勘違いしたためによるものだ。*1

 

André-Michel Guerryのグラフについて

 アンドレ・ミッシェル・ゲリーによって1829年に考案されているグラフは、次のような形だそうだ。*2

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 彼は一年間の風の向きがどのように変化するのかを表すために考案した。通所の棒グラフによって表現しようとすると、1月から12月の変化が表現できないため、周期性を表すためにこのグラフを採用したのだろう。やっぱりクリミア戦争の死亡率の表現には適していないのでは・・・??

Léon Lalanneのグラフについて

 レオン・ラランヌ(これで読み方あってるんか?)によって1843年に考案されたグラフは次のような形らしい。このグラフは風向き頻度を表すそうだ。*3

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 棒グラフで風向きの頻度を表してもわかりにくいことために、この形をとったと思われる。やっぱりクリミア戦争の死亡率の表現には適していないのでは・・・??

ナイチンゲールはどこからこのグラフを知ったか

 ナイチンゲール発表以前に鶏頭図が採用されていることを示した。しかし、彼女がどこからこのグラフを学んだのかは不明だ。

 どこから知ったかの説の一つとして、彼女が発表に前に交流を持っていた統計学者ウィリアム・ファーによるものが挙げられる。ウィリアム・ファーは、ナイチンゲールとともにクリミア戦争の報告を行った人物で、ゲリーの論文にも精通していた。そのため、彼がゲリーのアイデア、すなわち鶏頭図を教えたとしても不自然ではないというものである。 

以上より結論

 やはり、ナイチンゲールが鶏頭図を考案したというのは言い過ぎのような気がする。

むしろ、周期性を持つものに使われていた鶏頭図を報告書に取り入れ、クリミア戦争の死亡率をわかりやすく示した、といったほうが真実に近いと思われる。

コロナ補償に関しての覚書〜「自粛と補償はセットだろ」はどこを基準に考えればよいのか?の続き

コロナ補償に関しての覚書〜「自粛と補償はセットだろ」はどこを基準に考えればよいのか? - fclbrのブログ
の続きというか補足。

 このブログを書いているのは2020年6月14日に書いているものだ。世の中では、緊急事態制限も解除され、休校も6月から解除となり、様々な施設や行事が再開されつつある。正直、あの時にあんなに大騒ぎした、現金給付や休業手当、自粛と補償のバランスの議論はどこかに飛んでいってしまったようだ。

 自粛と保障のバランスについて、政府が資料を載せているので簡単にまとめておく。

未来投資会議

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/dai38/siryou3.pdf

この未来投資会議に体系的な資料が載っているのでまとめる。

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 まず、基本的な対策については、外国と日本では大きな差がない事が指摘されており、営業規制については、海外では罰則を伴うことが書かれている。

 

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 具体例を上げて、海外における営業停止措置と、支援措置についてアメリカ、イギリス ドイツ、フランスを列挙していることが分かる。

 強い営業禁止と現金給付が載せられているが、自粛への補償というには、業種を絞った給付ではないことを考えると、「自粛と補償はセットだろ」はやや疑問が残る。

 また、この資料には経済再開へのロードマップも各国の事例が載せられている。

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 なぜ、この資料が注目を浴びていないのかはわからない。あのときの議論の波はどこへ行ったのか。第二波への備えについては多くの議論があるが、こうした公的機関からの資料を用いた議論は少ないように思える。

 対策については、自粛と保障のバランス、人権抑制と公衆衛生、国民負担率と社会保障、そうした視点も必要なのだが、正直、そこまでに至る前に忘れ去られてしまいそうである。


 

 

10万円特別定額給付金の忘備録

5/17に給付金申請を行った。

面倒、10万円給付スマホ申請 (1/2)

にも、あるように非常にめんどくさいものだったが、20分ほどでなんとかなった。

色々と気になった点があるので書いておく

1 自分の市町を調べるのにPDFを開く必要がある。

 

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 スマホで手続きをする関係上、画面の小ささも相まって見にくい。

2 銀行コードではなくて手打ち方式

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 役所のシステムだと、銀行コード入力のところが存在するのだが、マイナンバーではコード入力のタイプではない。

3 途中で通帳等の写真が必要になる

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 入力前に、アプリはDLされているか?ブラウザは大丈夫か?等丁寧にチェック欄まで設けているのに、途中で必要になる銀行口座等の写真については聞かれない。

 多くの人がここで手続きを一旦停止して写真を撮っているんじゃないかな?(私見

やり方さえ分かれば、手続自体は20分ほどで終えることができた。

 こうしたオンライン手続きが増えてほしい反面、PCなんかだとカードリーダーなどが必要になることを考えると、難しいのかな?

 

#検察庁法改正案に抗議します についてのメモ書き


 S56に国家公務員法に勤務延長制度を導入。特別法である検察庁法(S22からそのまま)には適用されなかった。なぜ適用除外にしたかは不明。
※法務委員会での答弁 

第201回国会 法務委員会 第3号(令和2年3月11日(水曜日))

 なぜ、旧裁判所構成法には定年延長が存在するのに、検察庁法には定年延長の規定がそもそもないのかも不明。(大西委員は、入れなかった意図として、権力の恣意的介入を防ぐためでは?と指摘しているのに対し、森国務大臣は、その意図は必ずしもつまびらかではないと返している。)

 また、今回の改正によって検察においても「その退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由」があれば退職を延長できるが、これは、国家公務員法(e-Gov法令検索)にも書かれているので、黒川氏の延長目的と言うよりは他の公務員と合わせたと見るのが実際のところだろう。

 そもそも、施行は令和4年4月1日なので黒川氏の定年阻止には間に合わない

 黒川氏を半年の定年延長させたのは「東京高検検事長の管内において遂行している重大かつ複雑困難事件の捜査、公判に対応するため東京高検検事長の職務を遂行させる必要がある」とのことだが、「詳細については、個別の人事に関することである上、捜査機関の活動内容やその体制にかかわる事柄でもあることから、お答えを差し控えさせていただきます。」とのこと。(大西委員は「逃亡した日産自動車カルロス・ゴーン被告の事件を指していると言うような人もいますけれども、ゴーン被告の事件というのは東京地検特捜部の担当だということで、東京高検は関係ない。」と指摘している。)
 

 個人的には、半年延長後に検事総長になるためには、重大かつ複雑困難事件を解決しなきゃいけなくなる。しかし、そんな重大事件の捜査って何やろな?政権の大スキャンダルネタとか?どちらにせよ、その重大事件とやらが明らかになるまでは静観かね。

 

●国家公務員法等の一部を改正する法律案

 検察庁法に、定年延長の規定を設けるのは理解できるところでもあるでの賛成。

 役職定年自体は、もとから存在しているので賛成というよりはそのままで良い。

 黒川氏の定年延長は疑義もあり、手続きの瑕疵(口頭での採決)等が疑われる。特例措置を行うなら、法で明記すべきだったのでは・・・?

もともと公務員法には、定年延長の規定がある。

第八十一条の三 任命権者は、定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において、その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは、同項の規定にかかわらず、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定め、その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる。
○2 任命権者は、前項の期限又はこの項の規定により延長された期限が到来する場合において、前項の事由が引き続き存すると認められる十分な理由があるときは、人事院の承認を得て、一年を超えない範囲内で期限を延長することができる。ただし、その期限は、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して三年を超えることができない。

 

 政権が恣意的に人事介入できるとの指摘が多いが、逆に言えば、政権は検察以外の人事には介入ができていたということになる。まぁ、私も他の行政機関で定年延長をさせた事例を知らないが・・・。なので、やっぱり、黒川氏の半年延長のほうが大きな問題だと思うんですけど・・・?

 

コロナの騒動が終われば「自分はデマに惑わされず、正しい発言・行動をしていた!」がいっぱい出てくるんでしょうね。

 今回の騒動の最中ではあるけど、コロナの騒動において色々思うところについて述べておこうと思う。騒動が終わり、後知恵バイアスで記憶を書き換えてしまう前に書いておかねばならないような気がしたのだ。

1 後知恵バイアス

 昔々、といっても第二次世界大戦後のお話。戦後になると「日本が負ける」ということを最初から知っていたという人々が現れた。「オレは最初から無理だと思っていたんだ」「少し知恵を回してみるとすぐわかる」等、まるで最初から正しい判断を下していた人がどこからともなく増えていった。今風に言えば後知恵バイアスというやつである。しかし、このバイアスの恐ろしいところは、自分の記憶でさえ書き換えてしまうところにある。自分が間違えた選択をしていたということは、自己一貫性、アイデンティティの問題に直結してしまうからだ。

 今回のコロナの騒動では、様々な人々が現れた。最初中国からの入国禁止を決めたとき、過剰反応ではないかという声が多々あった。学校を閉校したときも反発があった。最初の緊急事態制限を行ったときも同様の声があった。しかし、今となっては自分の判断が間違っていたと言う人は稀だろう。そして、あのとき反対していたことは埋もれてしまう。そして、記憶からも消えてしまうのだ。

2 デマの流布

 コロナにおいては多くのデマが流れた、商品の品薄、エセ化学療法等、多くの怪情報が出回った。一つ一つの検証は難しいが自分の経験等を踏まえ、注意すべき点について書き残しておく。

1 政府や公的機関が信用できないからと言って、流れている噂に乗ってはいけない

 こうした流行症の対応については後手になりやすいことを考えれば、政府や公的機関に不信感を持つことは理解できる。しかし、だからといってソース不明の情報などに飛びついてはいけない。チェーンメールではないが、周りの人、友人が信用できると言ってどこから引っ張ってきたかわからないコピペを回してくることがあるだろう。十中八九ろくでも無い情報である。回してきた人があなたの信用できる人であってもである。多くの場合、デマというのは善意で流される。ソースがなければ無視したほうが無難だ。

 特に、TV画面のキャプチャやニュース記事のスクショなどはダメである。なぜなら、それらは情報の一部でしか無いので、全体としては反対に意見であっても全く逆の意味で捉えられる可能性があるからだ。

 また、検討、提案、素案というものは変動するものだ。その一部を切り取り、まるでさも決定事項のようにデマを流すものがいるので注意すること。

2 先入観に流されてはいけない

 人は見たいものしか見ない。今回のコロナの騒動では海外との比較がよくあった。そしてその度に検証する度に、都合の良い切り取り、誤謬、はては全く存在しない等様々な形でデマが渦巻いていた。はっきり言えば労力に合わない

 個人的には、公的ソース、即ち各省庁の情報をやはり調べるのが一番だ。また、海外の情報を検索する際には、海外の公的機関を同じように調べること。DEEPL翻訳等精度の良いものが最近はたくさんある。加えて、個人的には、保険会社や貿易関係の法律事務所などが出すレポート等もかなり役にたった。このレポートの良いところは政治色が薄いところにある。
 また、今回の事例ではやはりネットニュースは玉石混交ということも指摘しなければならない。例えば会見を調べるなら、公的機関のサイトに有る報道資料が一番である。もし、それが難しいなら各新聞が配信するニュースにしたほうが良い。週刊誌やスポーツ新聞等はできる限り避けたほうが無難だ。個人の書くネットニュースはイデオロギーもあり正直役に立たない。とくに「震えが止まらない」とか「涙が流れる」とか言う感情を利用したを用いたフレーズを多用するのは信用してはいけない。こうしたフレーズはたしかに読者に強いインパクトを与えるが、内容は薄っぺらいものだ。

3 結論

 ここまでとりあえず今の所書きたいことを書いておいた。おそらくこれからも感染症に関わらず有事の際には同じような事が起きると思う。私は都合よく記憶を捏造しないでいられるだろうか。わからない。 

コロナ補償に関しての覚書〜「自粛と補償はセットだろ」はどこを基準に考えればよいのか?

前回

コロナ補償に関しての覚書〜各国の休業補償はどのようなものか? - fclbrのブログ

前々回

コロナ補償に関しての覚書〜各国の現金給付はどのようなものか? - fclbrのブログ

 

今回は

News about #自粛と補償はセットだろ on Twitter

について、諸々書いておく。

 

1 支援策に違いが生じる理由

 今回の自粛と補償のセットにおいては、海外との比較はあまり見られなかった。

 少なくとも現金給付のときや休業補償のように比較するツイートは私の観測範囲では確認できなかった。他の国も大規模には行っていないので批判しにくかったのだろう。こういうときだけ他国を引き合いにせずにしていくのは賢いと思った。
 そもそも、事業者への支援策というものは各国によって違うものだ。

 支援策予算額は一般的に、国の豊かさ×国民負担率×(社会保障支出+経済対策支出)によってざっくりと計られる。

 国が豊かであればあるほど、国民に課せられる税負担率が大きければ大きいほど、そして、政府が支出する割合が高ければ高いほど、対策費というのは大きくなる。小さい政府であれば、自助努力が求められていくだろうし、大きい政府なら高福祉が見込めるだろう。

 また、今回の場合はコロナによる影響の大きさによっても支出は変わると見るべきだろう。例えば、コロナの影響によって国がパンクしているなら、なりふり構わず歳出を増やすのは当然と言える。また、医療現場が崩壊しているならそこに重点的に予算を費やしていくだろうし、先に経済の混乱が起こっているなら経済へと歳出を出していくだろう。

 また、前回、前々回においても触れたとおり、どのようにその対策費を使っていくかは当然違いが出てくる。例えば、雇用関係の解消が容易なアメリカとイギリス及びシンガポールでは、アメリカが失業給付の対象者拡大に努めたのに対し、イギリスとシンガポールでは、給与を会社が労働者に100%支払う(国はそれを条件に補助金を出している)といったように違いがある。(もっというと、そもそも、シンガポールでは失業保険は存在しないのでこういう形以外無いのだが・・・)。

 このように、支援策一つとっても単純比較できない事がわかる。OECDのなかでは小さい政府に位置づけられている日本がどのくらい出せばよいかということも踏まえると、大きい支援は難しいのではないだろうか?

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2 自粛の方法に違いが生じる理由

 自粛一つとっても各国それぞれ対応は違う。 

東京新聞:<新型コロナ>都市封鎖 各国に差 外出で罰金、逮捕も 東京はどうなる?:国際(TOKYO Web)

 罰金制度を導入する国、もっと強い刑罰制度を導入する国等、その対策も多種多様に渡る。もちろんこうした強い自粛をすればするほど、人権は制限されることに注意が必要だ。そのため、強い権限が政権に与えられていれば素早く強力な対策を打つことが可能であろう。もちろん、この自粛命令は独裁にも繋がりかねず、いい面ばかりではない。ほんとに今の政権が独裁ならこれにかこつけて人権抑制していると思う。
 例えば、今回のコロナ対策で世界から見ても優秀な抑え込みに成功している韓国においては、住民登録番号という、日本におけるマイナンバー制度(住民登録番号のこと、冷戦時にスパイ防止のために作られた)を運用していたことや、感染者の足取りを広く公開する等の対策が見られる。また、感染が確認された場合、感染者のスマートフォンやクレジットカードの使用履歴、監視カメラなどの情報などを用いて感染されるまでの感染経路を把握し、公開していることも韓国が抑え込みに成功している原因の一つだろう。

日本が韓国の新型コロナウイルス対策から学べること──(2)マスク対策 |ニッセイ基礎研究所

日本が韓国の新型コロナウイルス対策から学べること──(3)情報公開 |ニッセイ基礎研究所

また、他の抑え込み成功国でもある台湾でも身分証の携帯義務があるなど、そうした管理国家であれば、(人権の抑制には目を瞑れば)こうした感染症の対策は容易になるだろう。

3 結論

 正直、自粛と補償のバランスの兼ね合いは難しいものに感じた。上で述べたように、損失補償は世界的に見ても少数派であるし、もっと言えば前々回で触れた現金給付に関しても、外国人も対象にする、収入に差をつけない無条件給付であることを考えると大盤振る舞いといっても良いはずだ。加えて、中小企業などに対しては100%の休業手当を目指しており、これも、他国に遜色ないというか、はっきり言えばかなり手厚いサポートになっていると感じる。大騒ぎした割にはそこまで批判を呼ぶことだろうか?というのか率直な感想だ。きっと、次の対策についてもあれこれ批判が飛び交うのだろう。そして、正しい情報の周知や訂正などが行われる前に、新しい批判がまた生まれるのだろう。こうしたことをまとめて書いている身としてはなんともやるせないものである。

コロナ補償に関しての覚書〜各国の休業補償はどのようなものか?

fclbr.hatenablog.com↑の続きを書いておく
 なお、前の記事で取り上げるはずだったイタリアの30万はソースが見つからず、断念いたしました(わかる方いたら教えて下さい・・・)。

今回の検討ツイート

 もちろん、休業補償も国民負担率によって大きく違うことは言うまでもない。

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https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/17/backdata/01-01-02-06.html

※追記

 書いていくうちに、どうやろこうした休業手当には複数の対策があるらしい事がわかったのでここで書いておく。

 日本においては休業手当として支給されているものが、他の国では部分的失業、一時帰休及び失業給付などで賄われているらしい。部分的失業は短時間労働に切り替え、賃金を減額する代わりに、その減少分を国が支援するタイプ。一時帰休は、一時的に解雇することで賃金の支払いを減少させ、その減少分を国が支援する。失業給付は、文字通り解雇を行い、その代わりに失業給付を受け取るもの。

 

 

 

1 日本の場合

 例えば、日本の例を見ておくと

新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)|厚生労働省

労働基準法においては、平均賃金の100分の60までを支払うことが義務付けられていますが、労働者がより安心して休暇を取得できる体制を整えていただくためには、就業規則等により各企業において、100分の60を超えて(例えば100分の100)を支払うことを定めていただくことが望ましいものです。この場合、支給要件に合致すれば、雇用調整助成金の支給対象になります。

 休業するときは「企業」が「労働者」に「賃金の60%以上」を払う
で、雇用調整金助成金とは

雇用調整助成金 |厚生労働省雇用調整助成金の要件緩和の概要

つまり、「企業」に対して「労働者に払った休業手当の最大90%」を支払う。

では、この時、海外の事例と比較する時、どのようにまとめるのが正しいだろうか?
「政府は賃金補償を行っていない!!」(補償するのは休業手当のため)
「いや、賃金の9割保証している!!」(企業が通常通り賃金を支給しており、9割負担した場合)
 どちらも、正確性にかけるというのが実情であろう。ただ、実際のところは、6割支給に対して、9割補償というのが実情ではないかと思われる。

あと、この休業手当は所得税とか諸々取られる。

 

2 フランスの場合

 そもそも、フランスは大きい政府の一つであることを考えると、84%補償はそれなりに、信用できそうだと思われる。

【新型コロナウイルス】全土封鎖中のフランス ホテル従業員や教師ら市民の声を現場からリポート (1/2)

部分的失業として一時的休業の状態になり、給料(税込み)の84%が補償される。その後、外出禁止期間が終わったら、職場に戻る

額面の70%(手取り額の約84%)を「企業」が「労働者」に支払うということらしい

新型コロナウイルス、フランス経済にも大打撃。 – OVNI| オヴニー・パリの新聞
コロナウイルスによる経済停滞の影響で従業員を一時的な就業停止状態にせざるを得ない企業には、国がその分の給与を法定最低賃金(SMIC)の4.5倍を上限に100%補償すると発表した。

通常は就業停止となった従業員は給与の約85%を雇用者から支払われ、国はそのうちSMIC分しか企業に払い戻さないのだが、今回は例外的措置として企業負担分を全額、国が補償するということだ。

 そして、「国」が「企業が支払った休業手当の10割」を支払う。

大きい政府は手厚い保障ということなんですかね。
(失業保険についてはこちらが詳しいが割愛する。最長2年の失業手当と高い労働権利意識。フランスの社会保険制度運用は成功しているのか? - wezzy|ウェジー

3 ドイツの場合

【新型コロナウイルス】労働者の給与補償、諸外国ではどうしている?<デンマーク、ドイツ編> | 勤怠打刻ファースト
短時間労働給付金とは、雇用者が労働者に対し、解雇の代替案として「労働時間の短縮」を求め、労働時間減少による給与減少分の一部については政府が保証するといった制度のこと(中略)

労働時間の短縮によって生じる賃金喪失分の60%(子供がいる場合は67%)を手当し、社会保険も同庁が全額補償します。

 なので、休業補償とはまた違った制度(失業給付に近い?)を利用して補償しているらしい。

アディダスが賃料支払い延期問題で謝罪 「過ちを犯し、多くの信頼を失った」 | WWD JAPAN.com

雇用者は従業員の労働時間を短縮し、労働時間減少による給与減少分の一部を政府が補塡する。企業が給与の40%を負担し、連邦雇用庁が賃金喪失分の60%を手当する。結果として従業員はフルタイムで働かなくても通常支払われる給与の4分の3程度の金額を受給することができる。

上のようなケースだと、労働時間を減らして、賃金の4割を企業が負担する。残り6割の内の6割、すなわち賃金の36%を政府が支払う。

 上の事例は家賃補助を支払い能力があるアディダスが利用しようとして揉めた事件のニュースです。

4 デンマークの場合

デンマーク語はgoogle翻訳の精度がガバガバでめっちゃ苦労しました・・・。

デンマーク語→英語にしてからDeeplで翻訳したけど間違っていたらゴメンなさい。

【新型コロナウイルス】労働者の給与補償、諸外国ではどうしている?<デンマーク、ドイツ編> | 勤怠打刻ファースト

2020年3月9日から2020年6月9日の3ヵ月間に生じた賃金費用の部分的な払い戻しが受けられるようになるとのこと。具体的には、政府から75%(ただし、月37万円、時給労働者は41万円を上限とする)、企業が残りの25%を負担し、その代わりに労働者は年次有給休暇を5日返上するとの取り扱いとなります。

で、元ソースの方を見ると

Trepartsaftale skal hjælpe lønmodtagere - Finansministeriet

この協定は、COVID-19の影響で経済的に非常に厳しい状況にあるすべての民間企業の従業員に適用され、少なくとも30%以上、または50人以上の従業員の解雇を通知しなければならない状況に直面している場合に適用される。その場合、会社は従業員の給与の75%の給与補償を受けるが、従業員一人当たり月23,000デンマーククローネを上限とする。ただし、従業員は解雇しないが条件。

※仮訳です

で、この企業が出す賃金の25%は必ず出さなければならないのかは不明。

よって、「企業」に対して「賃金の75%」を支払うのが実情と行ったところか?

 

5 イギリスの場合

英政府、雇用維持する企業に異例の補助金 給与の8割 - BBCニュース

従業員がすでに一時帰休させられた企業で、雇用主がこれを中止して休暇扱いに変更し、従業員の雇用を維持した場合、給与の8割をその企業に支給する。(中略)給与補助は額面給与を対象にし、対象期間は3月1日までさかのぼる。3カ月間続ける予定だが、「必要ならば」さらに継続する方針だと財務相は話した。 

 額面給与とは、税金その他が引かれる前の額、すなわち賃金と読み替えても差し支えない。

Lay-offs and short-time working - GOV.UK

契約で未払いまたは減額したレイオフが許可されていない限り、全額を支払う必要があります。

イギリスには休業手当で日本と違って、もとから10割支給?

 「企業」は「労働者」に10割支給、「国」は「企業」に8割支給といったところだろうか。

6 スペインの場合

  私が知る限りでは10割補償は見つからなかった・・・。10割って、まず無いと思うんですけど ?(当然の疑問)

 

 7 結論

 各国の対策について調べたところ、各国それぞれ自分の国にあった対策をとっている事がわかった。そもそも、既存の労働システムが違う以上給付の割合が違うのは当たり前とも言えるし、失業給付、解雇手当によって、評価もまた違ってくるだろう。正直、休業補償だけで比較するのは無理筋とも言える。

 ただ、一つだけ確実と言えるのは、デマをデマというのは労力もかかるということぐらいだろう。コロナウイルスの対策自体は検索していてもよく出てくるのだが、コロナウイルス以前の政策は、かなり見つけづらい。そのため、追加措置ばかりが拡散され既存の政策というのは評価されにくい。休業手当の概念がないのか調べてもヒットしないことも多いので調べるのにも時間がかかる。

ツイッターの公式マークって情報を精査する上では役に立たないんですね。